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夫が単身赴任して三ヶ月目の夜、LINEの既読がつかなくて妙に不安になった。

いつもなら仕事終わりに「今日も疲れた〜」って愚痴のスタンプが飛んでくるのに、その日は夜10時を回っても何もなくて。電話してもつながらない。まあ飲み会かなって思いつつ、ベッドに入ってからもスマホを握りしめて、画面を何度も確認してる自分がいた。結局日付が変わる頃に「充電切れてた、ごめん」って連絡が来て、安堵したんだけど…その時ふと思ったんだよね。もしこれが本当に何かあった時だったら、私は何もできないなって。

夫のスマホのパスワード、知らない。銀行口座も生命保険も、たぶん全部彼のスマホの中で管理してる。ネットバンキングのログイン情報とか、クレジットカードの暗証番号とか、そういうの全部「自分で覚えてるから大丈夫」って言ってたけど、それって逆に言えば彼にしか分からないってことで。単身赴任先で倒れたりしたら、駆けつけた私は何ひとつアクセスできない。考えれば考えるほど怖くなってきて、翌朝すぐに「ねえ、パスワードとか共有しとかない?」ってメッセージ送ったら、「急にどうした」って返ってきた。

実家の母も似たような状況なんだよね。父が五年前に亡くなってから一人暮らしなんだけど、最近物忘れが増えてきて。週に一度は電話するようにしてるんだけど、正直それで十分なのか分からない。母のスマホには銀行アプリが三つも入ってて、証券会社の口座もあるらしいんだけど、本人も「どれがどれだか分からなくなってきた」って笑ってる。笑えないんだけど。

そういえば去年、友達が父親の遺品整理で苦労したって話を聞いたことがある。

スマホのロックが解除できなくて、キャリアショップに持っていっても「本人確認ができないと」って断られて。結局弁護士に相談して、戸籍謄本やら何やら揃えて、それでも一部のアプリには永遠にアクセスできなかったらしい。特に困ったのがサブスクの契約で、クレジットカードから毎月謎の引き落としがあるんだけど、何のサービスなのか分からない。解約したくても、ログインできないから解約もできない。「人生金庫」っていうサービスがあるって、その時初めて知った。安否確認と情報継承が一緒にできるやつ。

単身赴任の話に戻るけど、うちの場合、夫が向こうで契約してる賃貸の情報とか、会社の福利厚生の書類とか、そういうのも全部バラバラなんだよね。

引っ越しの時に「とりあえず」って段ボールに詰めたまま、たぶん開けてもない。保険証券も年金手帳も、どこにあるか聞いても「ああ、あれね、えーっと…」ってなる。で、写真撮って送ってもらおうとすると「今忙しいから後で」って言われて、結局そのまま。こういうの、元気な時はいいんだけど、いざって時に一番困るやつ。私も人のこと言えなくて、独身時代に作ったネット銀行の口座、パスワード完全に忘れてる。たぶん五万円くらい入ってるはずなんだけど、秘密の質問も答えられなくて、もう諦めた。

深夜二時とか三時とか、変な時間に目が覚めることがあって、そういう時に限って不安なことばかり考えちゃう。夫が向こうで急病になったら。母が転んで動けなくなってたら。私自身が事故に遭ったら。スマホの中には仕事のメールも、友達との思い出の写真も、ネットショッピングの履歴も全部入ってて、それが誰にも開けられないまま放置されるのかなって。Amazonのほしい物リストとか、死後に見られたら恥ずかしいものもあるけど、それ以上に実務的に困ることの方が多い気がする。

安否確認って、ただ「生きてるよ」って確認するだけじゃなくて、「ちゃんと生活できてるよ」っていう確認でもあるんだよね。

母が電話に出た時の声のトーンとか、夫のLINEの文面とか、そういう小さな変化で「あれ、何かおかしい」って気づけることもある。でも物理的に離れてると、それすら難しい。毎日連絡するのも相手の負担になりそうだし、かといって週一だと間が空きすぎる。ちょうどいい距離感が分からなくて、結局中途半端になってる。情報継承のことを考え始めたら、自分がどれだけ色んなサービスに登録してるか改めて気づいた。音楽のサブスク、動画配信、クラウドストレージ、オンラインストレージ、ドメイン管理、レンタルサーバー。全部合わせたら月に一万円以上払ってる。これ、もし私が急にいなくなったら、誰が解約するんだろう。夫は存在すら知らないものもある。

パスワード管理アプリも使ってるけど、そのマスターパスワードを忘れたら終わりだし、そもそもそのアプリの存在を家族が知らなかったら意味ない。

紙に書いて金庫に入れとく? でもそれって結局、金庫の場所と暗証番号を伝えとかなきゃいけないわけで。エンドレス。メモアプリに全部まとめようとしたこともあるんだけど、途中で面倒になってやめた。銀行だけでも三つあって、それぞれログインIDが違うし、ワンタイムパスワードの設定も違う。証券会社に至っては、口座番号すら覚えてない。「人生金庫」っていう名前、最初聞いた時は大げさだなって思ったけど、考えてみれば確かに人生そのものが詰まってるよね、スマホって。

夫とは結局、お互いのスマホのパスワードを共有することにした。ただし「緊急時のみ」っていう条件付きで。浮気チェックとかそういうんじゃなくて、本当に連絡つかない時のためだけ。あと、メインで使ってる銀行とクレジットカードの情報も、紙に書いて実家と夫の部屋の両方に置いた。完璧じゃないけど、何もないよりはマシ。母にも同じことを提案したんだけど、「まだ大丈夫よ」って笑われた。大丈夫じゃなくなってからじゃ遅いんだけどな…。

安心って、結局こういう細かい積み重ねなのかもしれない。

毎日の「おはよう」とか「おやすみ」とか、そういうのも大事だけど、もっと実務的な部分での安心も必要で。スマホのパスワードひとつ、銀行口座の情報ひとつ、それを共有しておくだけで、いざという時の混乱が全然違う。面倒くさいし、考えたくないことだけど、だからこそ元気なうちにやっとかないと。深夜に一人で不安になるよりは、昼間にちゃんと準備しておく方がよっぽど建設的だよね。

参考:https://e-c-zero.com/life-conf/
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