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窓の外がまだ薄青い時間に、目が覚めた。

カーテンの隙間から差し込む光は、まだどこか遠慮がちで、部屋の空気はひんやりとしている。夏の朝のはずなのに、この時間帯だけは少しだけ秋を先取りしているみたいだった。ベッドの縁に腰かけて、頭の中に浮かびあがってくるのは、今日やらなければいけないことの断片。会議の準備、返せていないメール、週の初めに積み上げた小さなタスクたち。

ぼんやりと考えながら、ドリップコーヒーを淹れた。

「モーニングフォレスト」というブレンドで、近所の小さな豆屋で買っている。深煎りの香りが台所に広がった瞬間、少しだけ呼吸が深くなる感じがある。あれは不思議だ。香りってこんなにも、気持ちの整理を手伝ってくれるのかと、毎朝ひそかに思っている。

コーヒーカップを両手で包むようにして、ソファに座った。

今日は火曜日。月曜日の勢いが少し落ち着いて、でも週の真ん中にはまだ届かない、微妙な位置にある日だ。やることは確かにある。でも、全部を今すぐ終わらせなくてもいいとも、なんとなくわかっている。わかっているのに、頭のどこかが「早くしなければ」と言い続けるのが、少しやっかいなところだ。

そういえば子どもの頃、夏休みの宿題を前に同じ顔をしていた気がする。全部の量を一度に見てしまって、圧倒されて、結局その日は一行も書かなかった日。あの感覚と、今朝の自分は、どこか似ている。

だから今日は、ひとつだけ選ぶことにした。

今日の一番を、一個だけ。

それだけを、ちゃんとやる。そう決めると、不思議と肩のあたりが軽くなった。カップの縁に口をつけながら、ぼんやりと窓の外を見る。光がすこしずつ白くなってきた。蝉の声が遠くから聞こえてくる。夏の朝の、あの音だ。

心の余裕というのは、余裕があるときにしか生まれないものだと思っていた時期がある。でも最近は少し違う気がしている。余裕は、「全部やろうとしない」と決めた瞬間に、わずかに顔を出す。そういうものかもしれない。

ひとつずつ、でいい。

今日の翼は、今日できることをひとつ、丁寧に進める。それだけで十分だと、このコーヒーの温度が教えてくれているような気がした。ちなみにそのコーヒー、少し濃すぎて今日も口の中がほんの少し苦い。毎回同じ分量で淹れているつもりなのに、なぜかうまくいかない。それもまあ、ひとつずつ改善していけばいい話だ。

全部できなくても、大丈夫。まずは、目の前のひとつから。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。

忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。

もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。