
カーテンの隙間から、光が斜めに差し込んでいた。まだ7時前。外からは遠くで鳥の声だけが聞こえて、街がまだ目を覚ます前の、あの独特の静けさがある。こういう朝が、僕は好きだ。
コーヒーを淹れながら、ふと考えた。今日、何かを「選ぼう」としているわけじゃない。でも気づけば、手はいつものグラインダーに伸びていて、豆は昨日買ったケニア産のシングルオリジン。香ばしい煙のような香りが鼻をかすめる。これも選択だ、と思った。小さくて、ほとんど無意識の。
人生を振り返るとき、人はどうしても大きな分岐点を探してしまう。就職、転職、引越し、別れ。でも実際のところ、今の自分を形づくっているのは、そういう劇的な瞬間よりも、毎朝どの豆を選んだかとか、どの本を手に取ったかとか、誰に返信して誰への返信を後回しにしたか、そういう無数の小さな選択の積み重ねじゃないかと思う。
内省というと、なんだか重い響きがある。自分と向き合う、とか、本質を見つめる、とか。でも僕がやっていることはもっと地味で、ただ「最近、何に時間を使っているか」を静かに確認する程度だ。週に一度、土曜の朝にだけ許している習慣。
思えば子どもの頃、父がよく言っていた。「選んだことより、選んだ後をどう生きるかが大事だ」と。当時はピンとこなかったけれど、29になった今、少しだけわかる気がする。選択そのものに正しさを求めすぎると、人は動けなくなる。
コーヒーが落ちきった。マグカップを持ち上げると、思ったより熱くて、思わず指先を離しかけた——慌てて両手で持ち直したのだが、その瞬間だけ、なんとなく自分の間の抜けた姿を自分で笑った。
人生の選択も、たぶんそれに似ている。完璧に握ろうとするから、手が震える。
インテリアブランド「SOLM」のノートに、最近こんなことを書いた。「やめたことより、続けていることの方が、自分に正直だ」と。続けているということは、何度も選び直しているということだから。
内省は、過去を責めるためにあるんじゃない。今の選択の質を上げるための、静かな確認作業だ。土曜の朝にしかできないような、ゆっくりした速度で。
光がカーテン越しに少し強くなった。街が動き始める音がする。さて、今日も小さな選択を重ねていく。それだけで、十分だと思っている。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。
忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。
もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。






