
火曜日の朝、7時22分。
デスクの上にはまだ手をつけていないタスクが三つ。返信待ちのメールが六通。今日の午後には判断を求められる会議が入っている。コーヒーメーカーから漂うほろ苦い香りだけが、唯一ゆっくりしている。
こういう朝が続くと、思考は自然と「速さ」に引っ張られる。早く答えを出さなければ、という圧力が、静かに、でも確実に積み重なっていく。
僕は29歳で、毎日それなりの数の判断をしている。大きいものも、小さいものも。でも正直に言えば、忙しい日ほど判断の質が落ちていると感じることがある。速く動いているのに、どこかズレた方向に進んでいる感覚。それに気づいたのは、ある日の夜、同僚の田中さんがコーヒーカップを静かに差し出してくれたときだった。「翼くん、今日ちょっと空回りしてたね」と、彼女はそれだけ言って席に戻った。何も反論できなかった。
子どもの頃、父が将棋を指しながらこう言っていた。「迷ったときは盤から目を離せ」。当時はよく意味がわからなかった。でも今ならわかる。盤を見続けると、目の前の一手に囚われて、全体の流れが見えなくなる。思考が詰まるのは、情報が足りないからじゃなく、視野が狭くなっているからだ。
思考整理というのは、整頓することじゃない。余白をつくることだと思っている。
たとえば「ノーツクリア」というノートブランドの無地帳を一冊、デスクの引き出しに入れている。何かを書くわけじゃない。ただ開く。白いページを眺める。それだけで、頭の中の雑音が少し静まる感じがある。窓から差し込む朝の光が紙面に反射して、うっすらと温かい。五分もあればいい。
その五分の中で、本当に今日決めなければいけないことはどれか、と問い直す。すると、急いでいたはずの三分の一は「今日でなくていい」ことだったりする。残りの判断に集中できる。これが判断力の精度を上げる、地味だけど確かな方法だ。
情報が多い時代ほど、「何を見ないかを選ぶ力」が問われる。全部に反応しようとすると、脳はすぐに飽和する。飽和した状態で出した答えは、たいてい後で後悔する。
本質というのは、たいていシンプルな形をしている。でも慌てているときは見えない。余白があるときにだけ、静かに姿を現す。
急いで出した答えより、少し立ち止まって出した答えのほうが、結果的に遠くまで届く。それは経験上、間違いない。
火曜日の朝に、一度だけ立ち止まってみる。それだけでいい。
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忙しさの中で見落としているものは、意外と多いものです。
ほんの少し立ち止まり、余白を持つだけで、
見えるものや判断の精度は変わってきます。
もし、こうした視点に価値を感じるのであれば、


