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目が覚めた瞬間から、もう頭の中は忙しい。
今日の会議、返せていないメール、週末までに片付けたいあれこれ——。カーテンの隙間から差し込む10月の朝の光が、まだやわらかく白いうちから、僕の思考はすでに一週間分の荷物を抱えようとしていた。火曜日の朝というのは不思議で、月曜日の緊張が少し解けたぶん、「やらなきゃいけないこと」の輪郭がくっきりと見えてくる。それが、かえって重い。
コーヒーを淹れながら、ふと思い出した。
小学校の低学年のころ、母が「今日の宿題は算数だけにしなさい」とよく言っていた。全部やろうとして何もできなかった僕に、ひとつだけ選ばせてくれた。当時はその意味がよくわからなかったけれど、今になって、あれはとても賢いやり方だったと気づく。全部を一度に抱えようとするから、手が止まる。
ドリッパーから落ちるコーヒーの音が、静かにリズムを刻む。豆はいつも「ノルディカ珈琲」のエチオピア浅煎り。フルーティな酸味が鼻をくすぐって、少しだけ気持ちが前を向く。マグカップを両手で包むと、ひんやりした朝の空気との温度差がちょうどいい。ああ、今日もここから始まるんだな、と思う。
気持ちの整理というのは、大げさなことじゃない。
やることリストを全部書き出して、優先順位をつけて、ブロックスケジュールを組んで——そういう話じゃなくて。ただ、「今日の自分には何ができるか」を正直に見てあげること。それだけで、ずいぶん違う。
今日の僕が選んだのは、「一本だけ、大事なメールを書く」こと。たった一本。それだけ。……と決めたはずなのに、コーヒーを飲みながらスマホを開いたら、うっかりSNSを15分眺めていた。まあ、そういう日もある(自分でも少し笑えた)。
心の余裕というのは、スケジュールを空けることで生まれるんじゃなくて、「全部やらなくていい」と自分に許可することで生まれるんだと、最近ようやく実感している。焦りは、「もっとやれるはずなのに」という自分への期待から来ることが多い。その期待を、少しだけゆるめてあげる。
ひとつずつ、でいい。
窓の外では、金木犀がもう香り始めている。毎年この匂いをかぐたびに、「あ、秋だ」と思う。それだけで、なんだか一日が少し丁寧に感じられる。今日もきっと、そんな一日になる。全部できなくても、大丈夫。まず目の前のひとつから、静かに始めよう。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。
忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。
もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。






