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カーテンの隙間から、うっすらと光が差し込んでいた。9月の朝は、まだどこか夏の名残りを引きずりながらも、空気の端っこに秋の冷たさが混じっている。そんな微妙な季節の境目に、土曜日の朝はやってくる。

目が覚めて、スマホを見る。8時47分。平日なら焦るはずの時刻なのに、今日はなぜかそれが心地よかった。「あ、休みだ」と気づいた瞬間の、あの小さな安堵感。ぼくにとって、それが休日の朝のいちばん最初のご褒美だと思っている。

急いで起き上がる必要はない。ぼんやりと天井を見ながら、今週の記憶を少しずつ手放していく。月曜の会議、水曜の締め切り、金曜の帰り道に感じた疲れ。それらが、朝の光の中でゆっくりとほぐれていく感じがした。

しばらくして、キッチンへ向かう。冷蔵庫を開けて、昨日買っておいた卵と、少し硬くなりかけたバゲットを取り出す。特別なものは何もない。でも、急がずに作る朝食というのは、なぜかいつもより美味しく感じる。バターが溶けていく音、パンが焼ける香ばしいにおい。フライパンの前に立っているだけで、不思議と気分が切り替わっていく。

コーヒーを淹れながら、ふと子どもの頃のことを思い出した。休みの日の朝、父がいつもより時間をかけてトーストを焼いていた。急がない朝の匂いというのは、あの頃からずっと同じだなと思う。

食後、少しだけ外に出てみた。近所の公園まで歩いて10分ほど。特に目的はない。ただ、外の空気を吸いたかっただけだ。9月の朝の光は、夏のそれより少し角度が低くて、木の葉の間からこぼれる影が細長く伸びていた。地面が少しひんやりしていて、それが素足のサンダル越しにもわかるくらいだった。

散歩の途中、ベンチに腰かけてしばらくぼーっとした。何も考えていない、ようで、いろんなことが頭の中をゆっくり流れていく。気分転換というのは、何か特別なことをしなくてもできるんだと、最近やっと気づいてきた気がする。

帰り道に、「ノルディカ珈琲」という小さな焙煎店の前を通った。ガラス越しに見える豆の棚と、店主らしき人が丁寧に豆を量っている姿。今度、立ち寄ってみようと思いながら、今日はそのまま通り過ぎた。——いや、正直に言うと、財布を家に忘れてきていたのだ。気分転換の散歩のはずが、少しだけ悔しい気持ちが残った(次こそは、必ず)。

家に戻って、読みかけの本を手に取る。ページを開くと、前回どこまで読んだか忘れていて、栞が挟んであるのに3ページ前から読み直してしまった。それでもいい。今日は、そういう日だ。

自分の時間というのは、何かを成し遂げるためだけにあるわけじゃない。ただ、自分が心地よいと感じる場所に、静かに座っていること。それだけで、十分だと思う。

今日は急がなくていい。予定を埋めなくていい。あなたが「いいな」と感じた瞬間を、少しだけ大切にしてみてほしい。休日の朝は、そのためにある。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。

忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。

もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。