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目が覚めたとき、カーテンの隙間からうっすらと光が差し込んでいた。8月の朝特有の、もうすでに少し熱を帯びた白い光。スマホに手を伸ばして時刻を確認して——9時17分——そこでようやく、今日が土曜日だと気がついた。

ほっとした。それだけで、もう十分だった。

平日の朝とはまるで違う。月曜から金曜は、目覚めた瞬間から何かを処理し始める。メールの返信、会議の準備、今日こなさなければならないことのリスト。意識が追いつく前に、体がもう動き出している。でも今日は違う。今日は、そのスイッチをゆっくり入れなくていい。

しばらくぼんやりしてから、台所に立った。冷蔵庫を開けて、卵が2個残っているのを確認する。昨日の夜に買っておいたトマトも、ちゃんとある。特別なものは何もないけれど、急がないぶん、丁寧に焼けた。フライパンの上で白身がゆっくり固まっていく音、バターが溶けていく香り。子どもの頃、日曜の朝に父が目玉焼きを作ってくれたときの台所の匂いに、少し似ていた。あの頃は特に何も感じていなかったけれど、今になって思い出すと妙に懐かしい。

食べ終えてから、近所を少し歩いた。特に目的はない。近くの「ノルテ緑道」と勝手に呼んでいる、住宅街の裏手にある細い並木道。夏の朝の空気は重くて、でも木陰に入ると少しだけひんやりしている。セミの声がうるさいくらいに響いていて、それがなぜか心地よかった。

帰ってきて、本を開いた。ずっと積んだままにしていた一冊。ページをめくりながら、気分転換ってこういうことかもしれないと思った。遠くへ行くことじゃなく、ただ、自分のペースで何かをすること。

読みながら、気がついたら少しうとうとしていた。本が胸の上に落ちた音で目が覚めて、思わず苦笑いした——栞を挟み忘れたまま。どこまで読んだか分からなくなってしまったけれど、まあ、それでもいいかと思えた。

午後になる前に、部屋を少し片付けた。棚の上のものを整えて、窓を開けて空気を入れ替える。「カルム・ハウス」というインテリアブランドの小さなキャンドルをひとつ灯した。香りはシダーウッドとほんの少しの柑橘。炎がゆらゆらと揺れているのを眺めていると、時間がゆっくり流れているような気がした。

自分の時間というのは、何か特別なことをしなくても成立する。卵を丁寧に焼くこと、風の通る道を歩くこと、眠くなったら素直に眠ること。今日という一日を、誰かのペースではなく自分が心地よいと思えるリズムで過ごすこと。それだけで、休日の朝はちゃんと休日になる。

今日は急がなくていい。あなたが選んだ時間の使い方が、今日のあなたにとって正解だから。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。

忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。

もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。