
目が覚めたとき、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。秋の朝の光は、夏のそれとは少し違う。鋭さがなくて、やわらかく、部屋の隅まで均等に広がっていく感じがある。時計を見ると、8時47分。平日なら「もう遅い」と焦る時間だけれど、今日は土曜日だ。
そのことに気づいた瞬間、体の力がすっと抜けた。
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ゆっくり起き上がって、キッチンへ向かう。冷蔵庫を開けると、昨日買っておいた食パンが一枚残っていた。トースターに入れて、待つあいだにお湯を沸かす。ケトルがじわじわと音を立てはじめ、やがて小さな蒸気が上がる。その音と匂いだけで、なんとなく「朝が始まった」という感覚になる。
コーヒーは、近所の小さな焙煎店「ノルトコーヒー」で先週買ったエチオピア産の豆を使った。ミルで挽くと、部屋中に甘みのある香りが広がって、思わず深く息を吸い込んだ。子どもの頃、祖父の家に遊びに行くと、いつも台所からこういう香りがしていた。あの頃は意味もわからず「大人の匂い」だと思っていたけれど、今はその香りの中に、ちゃんと落ち着きを見つけられる。
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食パンが焼き上がる音がして、バターをのせた。溶けていくバターを見ながら、ふと「これが一番好きな瞬間かもしれない」と思った。誰かに話したら笑われそうな、小さな幸福だ。
少し遅い朝食を、窓の近くで食べた。外では風が木の葉を揺らしていて、時おり自転車が通り過ぎていく。何も急がなくていい。この「何も急がなくていい」という感覚こそが、休日の朝の本質なのかもしれない、なんて少し大げさなことを考えながら、コーヒーをすすった。
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食後、少しだけ部屋を整えた。机の上に積み上がっていた本を棚に戻して、床に落ちていたレシートを捨てた。たったそれだけで、部屋の空気が変わった気がした。大げさではなく、本当に。身の回りを整えることは、気分転換の中でもいちばん即効性があると最近思う。片付けながら、去年読みかけで放置していた小説を見つけてしまい、「あとで読もう」と思って机の上に置いた。ちなみに、それが今日いちばんの失敗だった。結局すぐ読みはじめてしまい、散歩に出かけるタイミングを完全に見失った。
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気を取り直して、外に出た。午前中の空気は、まだひんやりしている。近所の川沿いの道を歩くと、地面に落ち葉が一枚二枚と積もりはじめていた。10月の朝の空気は、吸い込むたびに胸の奥まで届く感じがして、平日に縮こまっていた何かがほぐれていくような気がした。
自分の時間というのは、特別なことをしなくても取り戻せる。散歩でも、読書でも、コーヒーを淹れるだけでも。
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今日、あなたがやらなければいけないことは、たぶん思っているより少ない。予定を詰め込まなくても、何かを成し遂げなくても、この朝はもうじゅうぶん豊かだ。心地よいと感じる時間を、自分のペースで選んでいい。それが翼なりの、土曜日の答えだと思っている。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。
忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。
もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。






