
目が覚めたとき、カーテンの隙間から光が斜めに差し込んでいた。秋の朝特有の、少し冷えた空気がそっと鼻先をかすめる。ああ、土曜日だ——そう気づいた瞬間、体の奥からじわりと力が抜けていくのがわかった。
平日の朝とはまるで違う。アラームより先に目が覚めても、誰かに急かされるわけじゃない。今日の翼には、決めなきゃいけない時間も、急いで向かう場所も、とりあえずない。
しばらくそのまま布団の中でぼんやりしていた。窓の外では、どこかの家の犬が一声だけ吠えて、またしんとなった。その静けさが、なんだかとても心地よかった。
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ゆっくり起き上がって、まずはコーヒーを淹れることにした。愛用しているのは「ノルディカ・ドリップ」というブランドのペーパーフィルター。細口のケトルからお湯を細く注ぐと、粉がふわっと膨らむ。その瞬間の香りが好きで、毎週末の小さな楽しみにしている。
コーヒーが落ちるのを待ちながら、窓の外を眺めた。十月の空は高く、雲がゆっくり流れている。この時期の光は夏と違って柔らかくて、部屋の中まで穏やかに届いてくる感じがする。
カップを持って窓際の椅子に腰を下ろした。一口飲んで、ふと思い出した。子どもの頃、父の休日の朝はいつもこんな匂いがしていた。台所からコーヒーの香りが漂ってきて、それがなんとなく「今日は急がなくていい日だ」という合図だった。あの頃から、休日の朝の香りは特別なものとして記憶に刻まれているのかもしれない。
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朝食は少し遅めに、トーストと目玉焼き。卵を割るとき、盛大に黄身を割ってしまったのはここだけの話にしておく(心の中で「あ」と思ったが、味は変わらないのでよしとした)。
食べ終えてから、近所を少し歩いた。気分転換というほど大げさなものでもなく、ただ外の空気を吸いたかっただけ。商店街の入口に植えられた金木犀が、まだかすかに香っていた。もう終わりかけの香りで、去り際の花のほうが、なぜかいつも記憶に残る。
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帰ってきてから、ずっと積んでいた本を開いた。自分の時間というのは、何か特別なことをしなくてもいい。ページをめくる音だけが部屋に響いて、それだけで十分だった。
読みながら少しうとうとして、気づいたら昼前になっていた。それでよかった。焦る必要は、今日はどこにもない。
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休日の朝というのは、取り戻すための時間なのかもしれない。平日に少しずつ削られていった何か——自分のリズムとか、好きな感覚とか——そういうものを、静かに手元に引き寄せる時間。
予定を詰め込まなくても、誰かと比べなくても、今日の自分が心地よいと思える選択をすればいい。それだけで、この土曜日はもう十分に豊かだと、翼はそっと思っている。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。
忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。
もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。






