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目が覚めたとき、カーテンの隙間から差し込む光がまだ柔らかかった。9月の終わりの朝は、夏の名残と秋の冷えが混ざり合っていて、布団から出るのが少しだけためらわれる。そういう朝が、僕は意外と好きだ。

火曜日。週が動き始めて、やるべきことがじわじわと頭の中に積み上がってくる日。月曜日の勢いが少し落ち着いて、代わりに「あれもやらなきゃ、これも終わってない」という声が静かに浮かんでくる。翼(僕の名前だ)は今日も、起き抜けにスマホのメモアプリを開いて、タスクの多さにそっと画面を閉じた。開いた意味。

コーヒーを淹れながら、ふと思い出したことがある。小学生のころ、夏休みの宿題を前にして動けなくなった夜のこと。ドリル、読書感想文、自由研究——全部が一度に目に入るたびに、どこから手をつければいいかわからなくて、結局ぼうっとしていた。あの感覚は、大人になった今でも消えていない。むしろ少し洗練されただけで、本質は同じかもしれない。

だから今朝は、一つだけ決めることにした。

「今日、これだけはやる」という一つを。

リストを全部こなそうとするより、まず気持ちの整理をすることの方が、ずっと大事だと最近思う。頭の中が散らかったまま動き始めると、何をしていても「他のことが気になる」という感覚がついてまわる。それは疲れる。じわじわと、静かに疲れる。

コーヒーの香りが部屋に広がる。「ルヴァン・ブレンド」という地元の小さな焙煎所のもので、深煎りなのに妙に穏やかな後味がする。マグカップを両手で包むと、ほんのりとした温かさが指先に伝わってきた。窓の外では、どこかの家の金木犀がもう咲いているのか、かすかに甘い匂いが風に乗って入ってくる。秋の朝というのは、五感をゆっくりと起こしてくれる。

心の余裕というのは、何もしないことで生まれるわけじゃない。「全部やらなければ」という重力を、少しだけ手放すことで生まれるものだと思っている。今日できることを一つ選んで、それをていねいにやる。それだけで、一日の重心がすっと落ち着く感じがある。

ひとつずつ、でいい。

そう口にすると、不思議と肩の力が抜ける。今日の一つが終わったら、また次の一つを選べばいい。それを積み重ねていくうちに、気づいたら随分と前に進んでいる——そういう経験を、僕は何度かしてきた。

全部できなくても、大丈夫。まずは今日、目の前の一つから始めてみよう。それだけで、この火曜日は十分に動き出せる。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。

忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。

もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。