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朝、目が覚めた瞬間に気づく。あ、金曜日だ。

カーテンの隙間からうっすら差し込む夏の朝の光が、部屋の端っこにある白いラグをぼんやりと照らしていた。8月の朝はもうこの時間から空気がぬるくて、窓を開けると遠くで誰かが自転車を漕いでいく音がした。チェーンのかすかな軋み。それだけで、なんだか今日という日が静かに始まった気がした。

今週も、ちゃんと来たんだな、と思う。

月曜日に少し気が重かったこと、水曜日の昼に食べたコンビニのおにぎりが思ったより美味しくてちょっと救われたこと、昨日の帰り道に信号待ちで空を見上げたら夕焼けがきれいで、思わず立ち止まってしまったこと。そういう細かいことが、一週間の終わりに向かってゆっくり積み重なっている。大きな出来事なんてなくていい。毎日をただ過ごすこと自体が、実はそれなりにちゃんとしたことなんだと、最近ようやく思えるようになってきた。

今日の朝、いつもより少しだけ丁寧にコーヒーを淹れた。

「ルナリア・ブレンド」という名前の豆を先週買っていて、ずっと開けるタイミングを探していたのだ。袋を開けた瞬間にふわっと広がる香りが想像以上によくて、思わず顔を近づけすぎて豆を一粒こぼした。拾いながら、なんかもったいない、と心の中でひとりツッコんだ。小さな失敗。でも、そういう朝もわりと悪くない。

ゆっくり落ちていくコーヒーを見ながら、今日の帰り道のことを想像する。

仕事が終わったら、駅の近くにある小さな雑貨屋に寄ってみようと思っている。先週から気になっていた、陶器のちいさなカップ。買うかどうかはわからないけれど、手に取って眺めるだけでもいい。それが今日の小さなご褒美になる。子どもの頃、母親が週末になると「今日はどこか行く?」って聞いてくれていたことを思い出す。行き先なんてなくてよくて、ただそう聞かれることが嬉しかった。あの感覚に少し似ている。自分で自分に「どこか行く?」って聞いてあげること。

金曜日の夜は、もう少し長く湯船に浸かろうと思っている。

好きな入浴剤を惜しまずに使って、スマホを置いて、ただぼんやりする時間。特別なことじゃない。でも、一週間を過ごしてきた体には、それがちょうどいいと思う。五感がじわっとほぐれていく感じ、湯気の向こうにぼやけた天井、肩まで沈んだときの重力が抜けていく感覚。それだけで、今週の自分を労ってあげられる気がする。

だから今日は、自分の歩幅で進めばいい。

急がなくていい。誰かに合わせなくていい。今日一日を、ただ穏やかに歩き切れたなら、それで十分だと思う。夜には好きな飲み物を手に、何も考えずに座れる時間がある。それを思いながら、今日もゆっくり始めよう。あなたの一週間は、ちゃんと価値があった。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。

忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。

もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。