
目が覚めたとき、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。九月の朝の光はまだ少し強くて、でもどこか柔らかい。夏の終わりが名残惜しそうに、部屋の端っこをそっとあたためている。翼です。今日は土曜日。
平日の朝とは、何かが違う。アラームを止めた瞬間の、あの小さな安堵感。「急がなくていい」という事実が、じわりと体に染み込んでくる感じ。布団の中でしばらくそのまま天井を見ていた。それだけで、もう十分な気がした。
平日はずっと、誰かのペースで動いていた。会議の時間、締め切り、メールの返信。気づけば一週間が終わっていて、自分が何を感じていたのかよく思い出せない。そういう疲れが、じわじわと積み重なっていたんだと思う。休日の朝は、そのリセットボタンみたいな時間だ。
起き上がって、まずお湯を沸かした。ケトルが鳴るまでの間、窓を少し開ける。九月の風が入ってきて、カーテンがふわっと揺れた。外から聞こえるのは、遠くを走る車の音と、どこかの家の犬の声。静かだけど、完全には静かじゃない。その中間くらいの音が、妙に心地いい。
朝食は、いつもより少しだけ丁寧に作った。冷蔵庫にあったトマトと卵で、シンプルなスクランブルエッグ。それと、近所のパン屋「アンブルベイク」で昨日買っておいたカンパーニュを厚めに切って、トースターへ。焼けたパンの香りが部屋に広がったとき、ああ、これが気分転換だなと思った。大げさじゃなく、本当にそれだけで気持ちが少し軽くなる。
食べ終わったあと、散歩に出た。特に目的地は決めなかった。子どもの頃、父と近所を歩くのが好きだった。どこにも行かないのに、なんとなく歩き続けるあの感じ。大人になってもその感覚は変わっていなくて、ふらふら歩いていると、頭の中がすこしずつ整理されていく気がする。
川沿いの道を歩いていたら、ベンチに鳩が三羽いた。近づいても逃げない。こちらが止まったら、向こうも止まった。なんとなく見つめ合ってしまい、「どっちが先に動くか」みたいな妙な空気になった。結局、ぼくが先に視線を外した。完敗だった(鳩に)。
帰ってきてから、本を開いた。ずっと読みかけだった小説の続き。ソファに座って、膝の上にブランケットをかけて、ページをめくる。自分の時間というのは、こういうことなのかもしれない。何かを達成しようとしているわけじゃない。ただ、自分が心地よいと思える場所に、自分をそっと置いてあげる。
部屋の隅に置いてある小さな観葉植物の葉が、光を受けてつやつやしていた。水をあげるのを忘れていたことに気づいて、あわてて水差しを持ってきた。こういう、身の回りの小さなことを整えるだけで、なぜか気持ちも落ち着いてくる。
今日は、何も詰め込まなくていい。予定がないことを、焦る必要はない。休日の朝は、自分のペースで始めていい。あなたも今日、急がず、自分が心地よいと思える時間を選んでみてほしい。
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こういう時間は、特別なものではなく、
ほんの少し意識するだけで日常の中に生まれるのかもしれません。
忙しさの中で見落としていたものに気づくと、
時間の流れは少しだけやさしくなる気がします。
もし、こうした“静かな余韻”に少しでも価値を感じるなら、
ぜひ武岡出版の作品もご覧ください。






