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武岡 隆のブログ

RYU TAKEOCA BLOG

武岡 隆のブログ

本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。

紙の本を開く時間が、少し特別に感じられる理由

夜、ひと通りの用事を終えて、机の隅に置いた紙の本を手に取る。表紙に触れ、開く。たったそれだけのことなのに、部屋の時間が少しゆるむように感じることがある。

画面を見ていた目が、紙の上の活字へ移る。ページの端には、指先が覚えているわずかな厚みがある。めくるたびに、乾いた小さな音がする。

その音は静かでありながら、読書を始めたことをきちんと知らせてくれる。紙の本には、読むための時間だけでなく、読む前後の時間も含まれているような気がする。

本棚から一冊を選ぶ時間。しおりを探す時間。途中で閉じ、伏せた本を翌朝また手に取る時間。

物語の外側にあるそうした余白が、読書を日常の中へゆっくり置いてくれる。電子の文字には電子のよさがある。明るさを調整でき、場所を選ばず、何冊もの文章を持ち歩ける。

それでも私は、ときどき紙の重さに戻りたくなる。ページをめくるという行為が、読むことを急がせないからだ。日本語は、行と行のあいだにも気配がある。

漢字の形、ひらがなのやわらかさ、句読点の置かれた場所。その一つひとつを目で追っていると、意味だけではなく、言葉の呼吸に触れているように思うことがある。

紙の白さの上で活字を読むと、その呼吸がいっそう近くなる。読書をする時間は、何かを生産する時間ではない。役に立つことを急いで探さなくてもいい。

ただ数ページを読み、窓の外の風の音に気づき、しばらく言葉の中にいる。それだけで、夜の輪郭が少し変わる。忙しい日には、まとまった時間をつくれないこともある。

一ページだけでもいい。数行でもいい。開いた本をすぐ閉じることになっても、そのあいだに指先と目が覚えている静けさは、どこかに残るかもしれない。

今夜、明かりを少し落として、身近な一冊を開いてみてほしい。読む場所は、物語の途中でなくてもいい。ページをめくる音だけが、静かな部屋に残る。

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