RYU TAKEOCA BLOG
武岡 隆のブログ
本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。
図書館が閉まったあとの返却口
図書館が閉まったあとも、返却口は本を受け取る。閉館とは、その日の図書館がすべて止まることだと思いがちだが、返すという用件だけは建物の外から続けられる。
ここで分けられているのは、開館時間と閉館時間だけではない。人が建物を利用できる時間と、借りた本を図書館へ戻せる時間である。二つは普段、同じ時間割の中に収まっているように見える。
開いている図書館へ入り、借り、読み、返す。返却口は、その一連の動作から「返す」だけを取り出して、別の時間にも置いている。閉館中は、棚を見ることも、新しく本を借りることも、職員に何かを尋ねることもできない。
人に向けた図書館の働きは、そこでいったん区切られる。一方、すでに外へ出ている本については受け取る。図書館から始まる用件は止まっていても、図書館へ戻ってくる用件は止めない仕組みになっている。
その違いが気になる。貸し出しには、利用者が館内へ入り、本を選び、手続きをする場所と時間が要る。返却は、どの本を戻すかがすでに決まっている。
返却口では、その本を預けるだけで、建物への入館を要しない。ただし、返却口へ入れた時点で、すべての手続きがその場で終わるとは限らない。実際の返却処理は、職員が本を回収したあとになる場合がある。
利用者の側では本を手放していても、図書館の記録の上では、まだ貸し出されたままの時間が残ることになる。ここには、もう一つの時間の分かれ方がある。
利用者が返したと考える時点と、図書館が返却済みとして扱う時点である。開館中に窓口や機器で返すなら、この二つは近い。閉館後の返却口では、その間に待ち時間が入る。
返却口は本を受け取るが、図書館のすべての機能を閉館後まで延長しているわけではない。入口なら、人と本が一緒に建物へ入る。返却口では、その二つが分かれる。
利用者は外に残り、借りていた本だけが内側へ移る。図書館が閉まったあとにも開いているのは、人のための小さな入口ではない。本だけを通す入口である。
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