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武岡 隆のブログ

RYU TAKEOCA BLOG

武岡 隆のブログ

本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。

奥付に記された本の時間

奥付の発行日は、本文の出来事には参加していない。物語が何年を舞台にしていても、登場人物がどれほど長い歳月を過ごしても、その日付は別の暦に属している。

本が本として作られた側の暦である。私が気になるのは、初版発行日の下に「第○刷発行」と別の日付が加わっている場合だ。最初の日付だけなら、その本が世に出た時点を示すものとして読める。

二つ目以降が並ぶと、奥付は誕生の日を記す欄ではなくなる。同じ本をもう一度作った日が、そこへ積み重なっていく。刷が増えても、物語の中で起きることは基本的には変わらない。

主人公は同じ場面で立ち止まり、読者が開く最初の一行も同じである。その一方で、奥付の発行日だけは数か月、数年と先へ進む。「第十刷」とあれば、十回読まれたという意味ではない。

十人の読者を示すものでも、読者の多さをそのまま数えた数字でもない。実際に何人が最後まで読んだか、どの一節が残ったかは奥付からは分からない。しかも、初版と現在の刷とのあいだは省略されていることが多い。

初版の日付と手元の一冊に対応する刷の日付だけが記されていれば、途中の各刷がいつ出たのかは見えない。奥付に並ぶ数行は詳しい年表のようでいて、本が重ねて作られた経過の大部分を数字の中へ畳んでいる。

「版」と「刷」が同じ欄に置かれている点も面白い。一般に、刷は同じ版を印刷した回数を示し、版が改まれば本文や組み方などに変更が加わることがある。

ただし、実際の表記方法は本によって一様ではない。だから第○版第○刷という記載は、単純に数字が増えたというだけでは読めない。どの内容の形を、何度本にしたのかという二つの軸が重なっている。

奥付は物語を味わうために必ず読む箇所ではない。飛ばしても筋は分かるし、登場人物への理解が欠けるわけでもない。ただ、その本が一冊の物としてどこに位置するかは、奥付を見なければ分からない。

同じ題名、同じ表紙に見える本でも、初版第一刷と後年の刷では、刊行の列の中で立っている場所が違う。古い初版発行日と、ずっとあとの刷の日付が並んでいると、その隔たりは物語の長さよりも具体的に見える。

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