RYU TAKEOCA BLOG
武岡 隆のブログ
本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。
氷が鳴らなくなるまで
夏のグラスでは、氷がまだ残っているのに、触れ合う音がしなくなることがある。飲み物は冷たいままで、氷も目に見えている。それでも、初めのうちに何度も聞こえた音は、いつの間にか途切れている。
私が気になるのは、氷が溶けることよりも、その途中で音の回数が減っていくことだ。入れたばかりの氷は、一つ一つに角があり、互いの間に隙間がある。
グラスが傾けば、それぞれが別の向きへ動き、隣の氷や器の内側に当たる。音が続くのは、冷たいからではない。複数の氷が、それぞれ動ける形で入っているからである。
時間がたつと、氷は小さくなり、角も失っていく。数が減る場合もあれば、隣り合う位置が変わる場合もある。飲み物の量も同じではない。
氷が鳴らなくなる理由を一つに決めることはできないが、少なくともグラスの中の配置は、初めとは違っている。飲み物の変化は、ふつう冷えているか、ぬるくなったかで捉えられる。
しかし氷の音を左右するのは温度そのものではなく、氷が何個あり、互いにどれほど離れ、傾けたときに別々に動けるかという配置と、持ち上げる、傾ける、置くという行為である。初めは少し動かすだけで続けて鳴り、やがて一度鳴って間が空く。
時計のように一定ではないその間隔の崩れが、グラスの中が初めの状態から離れたことを知らせる。音が減るにつれて感じられる時間には、経過した分数だけでなく、一杯がどのように扱われたかもにじむ。
よく飲まれた一杯と、長く置かれた一杯は、同じように氷が小さくなっていても、そこへ至る時間の姿が異なる。音はその違いを説明せず、鳴る間隔だけを残す。
氷が一片になれば、氷同士はもう触れ合えない。冷たさが残っていても、あの音の時間はそこで終わっている。
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