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武岡 隆のブログ

RYU TAKEOCA BLOG

武岡 隆のブログ

本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。

防虫剤の箱にある「ほかの種類と併用しない」理由

防虫剤の箱にある「ほかの種類の防虫剤と併用しないでください」という注意は、少し曖昧に見える。ここでいう「種類」とは、香りの違いなのか、形の違いなのか。

それともメーカーが違えば、すでに別の種類なのか。この一行が区別しているのは、主に防虫成分である。ナフタリン、パラジクロルベンゼン、しょうのうなど、成分の異なる防虫剤を同じ収納の中で使わないよう求めている。

「併用しない」という注意からは、薬剤の効果が弱くなるような話も連想しやすい。二つの成分が互いの働きを打ち消すのか、匂いが混ざるのか、と読めるからだ。

ところが、注意が警戒しているのは、効き目よりも防虫剤そのものの形が変わることだった。これらの防虫剤は、固体の状態から少しずつ気体になり、収納の中へ成分を広げていく。

単独で使われている間は、固体として保たれることを前提に作られている。ところが、異なる成分が一つの場所にあると、一方の成分がもう一方の表面へ移り、そこで成分の混ざった部分ができる。

純粋な物質には、それぞれ固体から液体へ変わる温度、つまり融点がある。ところが、別の物質が混ざると、元の成分だけで整っていた結晶の並びが崩れ、単独のときより低い温度で溶けることがある。

融点降下と呼ばれる現象である。そのため、混ざっていない部分が固体のままでも、異なる成分が接して混ざった部分だけは、それぞれを単独で置いた場合より低い温度で液状になり得る。

興味深いのは、二つとも最初は固体であることだ。固体と固体を一緒に置いたのだから、そのまま二種類の固体として残りそうに思える。液体を加えたわけではないのに、混合そのものが、収納内の温度で溶ける条件をつくってしまう。

防虫剤が小さくなるだけなら、本来の使われ方の範囲である。固体から気体になり、やがて見えなくなる。だが、異なる成分との組み合わせで液体になると、話が変わる。

溶けた薬剤が衣類に触れれば、しみや汚れの原因になるおそれがある。箱の注意は、防虫効果の組み合わせではなく、この液体を衣類へ近づけないためにある。

しかも、二種類を隣り合わせに置かなければ安全、とは限らない。同じ引き出しや収納ケースの中では、それぞれの成分が気体になって広がる。容器の右端と左端に分けても、その距離は成分の行き来を止める仕切りにはならない。

ここで「ほかの種類」という表現の役割が見えてくる。丸い錠剤と細長い包み、つるすものと置くもの、といった外見上の分類ではない。商品名が違うかどうかでもない。

箱の成分表示を見なければ判別できない種類である。一方で、防虫剤なら何と何でも併用できない、という意味でもない。成分や製剤によって扱いは異なり、ほかの防虫剤と併用できる旨を示した製品もある。

だからこそ、見た目や匂いから相性を推測するより、それぞれの箱に記された成分と注意を確かめる必要がある。衣替えでは、新しい防虫剤を入れることに目が向きやすい。

だが、この注意にとって問題になるのは、新しく加える一箱だけではない。前に使った防虫剤がわずかに残っていれば、それも異なる成分が出会う片方になる。

「併用しない」の対象には、収納の隅に残った前の一個まで含まれている。

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