RYU TAKEOCA BLOG
武岡 隆のブログ
本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。
登場人物ごとに「知っていること」をAIで分ける
物語の草稿には、ときどき作者の知識が登場人物へ早く渡ってしまう。文章としては不自然でなく、場面も滞りなく進んでいる。それなのに、その人物はまだ知らないはずの事実を前提に話したり、迷わず行動したりしている。
たとえば、引き出しに鍵があると後の場面で初めて知る人物が、それ以前の場面ですぐ正しい引き出しへ手を伸ばしていたとする。探すつもりで順番に開けたのか、場所を知っていたのかは、動作の書き方によって変わる。
作者は鍵の場所を知っているので、その近道に気づきにくい。こうした混入を確かめるために、草稿をAIに読ませ、登場人物ごとの「知っていること」を分けて整理する方法が考えられる。
ただし、人物別に事実を箇条書きにするだけでは足りない。重要なのは、その事実がいつ加わり、何を情報源にしているかである。表にするなら、「人物」「知った事実」「知った時点」「情報源」「根拠となる本文」を一組にする。
時点はページ番号より、場面や出来事を基準にした方が草稿の改稿に耐えやすい。「手紙を読んだ後」「電話を受ける前」といった区切りである。本文の引用も添えさせれば、AIの整理がどこから出てきたのかを原稿へ戻って確かめられる。
情報源を分けると、同じ「知っている」の中身も違って見える。本人が見た。別の人物から聞いた。
状況から推測した。そう信じ込んでいる。物語では、事実とは異なる内容を人物が確信していることもある。
その場合、事実の一覧ではなく、その人物にとっての認識として残さなければならない。また、「まだ知らない」を空欄にしない方がよい。空欄は、情報がないのか、AIが拾い損ねたのか、未確認なのかが分からない。
「この時点では本文上の入手経路がない」と書かせる。その一行が、台詞や行動を調べる目印になる。確認は知識の一覧を作って終わりではない。
今度は逆に、各場面の台詞と行動から「これを言う、または行うために必要な知識」をAIに挙げさせる。先ほどの表と照らし、必要な知識の入手時点が場面より後なら、順序に疑いが生じる。
人物から知識へ進む表と、行動から前提知識へ戻る点検は、似ているようで役割が異なる。台詞の漏れは、事実を口にした場合だけではない。驚くべきところで驚かない。
知らないなら尋ねるはずのことを尋ねない。複数の候補があるのに、一つだけを最初から避ける。知識は説明よりも、選ばなかった反応に入り込むことがある。
ここは単純な語句検索では見つけにくく、AIに場面全体を読ませる意味がある。一方で、怪しい箇所がすべて誤りとは限らない。人物がはったりをかけているなら、知らない事実を知っているように話すこともある。
偶然正しい引き出しを開ける展開もあり得る。表が示すのは矛盾の確定ではなく、作者が意図を確認すべき場所である。嘘や偶然なら、そのように読める手がかりが草稿にあるかを見直せばよい。
AI自身も、人物が知っていそうだという推測を、本文に書かれた知識として扱うことがある。そのため「推測で補わず、根拠箇所がない場合は不明とする」と条件を付けたい。
人物名が省かれた会話や、誰を指すか曖昧な代名詞も、確定させず候補として出させる。最後の判断まで渡すのではなく、判定の根を本文に残させるのである。
一覧の中で私が見たいのは、知識の多い人物ではない。ある行動の欄には根拠があるのに、その根拠となる情報を得る場面が、時間の上では後ろに置かれている。
その前後のずれである。
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