RYU TAKEOCA BLOG
武岡 隆のブログ
本、活字、日本語、物語、記憶、時間。
日々の中でふと立ち止まったことを、武岡 隆の言葉で静かに綴ります。
蜘蛛の巣を浮かび上がらせる朝露
秋の朝、蜘蛛の巣に露が付くと、昨日まで見えなかった形が急に現れる。巣が新しく作られたとは限らない。細い糸はすでに張られていたのに、こちらの目がそれを捉えられなかっただけである。
私が気になるのは、朝露が糸を太い線に変えるわけではないことだ。露は細かな粒となって並び、その一粒ずつが光を反射したり屈折させたりする。それによって、糸の通り道が点の連なりとして見えてくる。
連続している糸を、途切れた粒が知らせている。円形に近い巣なら、中心から外へ伸びる糸と、その間を巡る糸がある。露が付く前には、光の向きや背景によって数本だけが見えることもある。
その状態では全体の形をつかみにくい。粒が広い範囲に付くと、中心から外へ伸びる糸と、その間を巡る糸が同時に現れる。秋だけに露が生じるわけではない。
物の表面が冷え、周囲の空気に含まれる水蒸気が凝結する条件がそろえば、別の季節にもできる。秋は朝の冷え込みが目立つようになり、草や糸の上に残る粒を見つけやすい時期である。
蜘蛛の巣が秋に突然増えたように感じられるとしたら、数だけでなく、見える条件が変わったことも関係しているのだろう。また、露が付けば、どんな角度からでも巣全体がはっきり見えるわけではない。
粒が光を返す方向と見る位置が合わなければ、部分しか浮かばない。朝露は巣を目立つ物へ永久に変えるのではなく、もともとある構造を、限られた条件の中で見つけやすくしている。
目は、放射状に並ぶ点の列と、その間を巡る点の列がどこで交わり、どこを囲むかをたどって、巣の全体像を読む。日が高くなり、粒が小さくなるにつれて、輪郭は部分ごとに見えにくくなる。
蜘蛛の巣が壊れたわけではない。露によって一時だけ見えていた線が、また細い糸へ戻ったのである。
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